曲の途中なのにブラボーとか言ってくるラウル子爵

オペラ座の怪人!観たことがあるって人も多いんじゃないでしょうか。よく金曜ロードショーなんかでも映画版が流れていたし。

顔面が焼け爛れたイカれおじさんの怪人(ファントム)、歌手のクリスティーヌ、クリスティーヌに恋するラウル子爵という3人の登場人物が主軸となって物語は進んでいきます。

イカれおじさん…ファントムはね、クリスティーヌのことが女性として好きなんですよ。ここの時点で歳が離れ過ぎているし何よりクリスティーヌは16歳!アウト!!!

でも、それだけではなく、彼女のことを歌手としても愛しているわけなんですね。

まあ人は吊るして殺すんだけどね、殺人しながらでも恋愛はできます。

対してラウル子爵は、クリスティーヌのことを女性として好き、です。音楽のことは分からない。彼女の才能のことなんて知りません。だって彼、クリスティーヌの歌う劇中劇のアリアの途中に「ブラボー!!!!」って席で叫びますからね。終わってねえっつうの。あのさぁ、上手いか下手か分かんないのにブラボー言うな(いえ、ブラボーは気軽に言っていきましょうね!)

まだカデンツァも残ってるって。本当に良いって思った?可愛かったからブラボーって言ったんじゃなくて?

ちなみにファントムはちゃんと曲が終わってからBravi,Bravi,Bravissimoって言ってます。

ラウル子爵の描かれ方というのは、演出によって、また、時代によっても、大きく異なるんだな。とわたしは感じています。

一番王道で古い…古いと言ったらアレだけれども、一番定番の演出で、ラウル子爵は理想の王子様として描かれます。見た目が素敵で、リッチな貴族で、誠実な若者で、邪悪なファントムからクリスティーヌを守ってくれる。

けれども、それでいいのか?という問題が出てくるわけなんですよね。ラウルはクリスティーヌの才能なんて知らんのですよ。べつに音楽とかどうでもよくて、ただ異性として好き。理想の王子様が迎えにきてくれる、って、それだけ?みたいな。いつの話だよ……そんな感じになってしまうんですよね。

で、それを受けてなのか分からないけど、家柄だけが長所で、無駄に無邪気で世間知らずだったり優しいんだけど空回りして信頼されなかったり、みたいなラウルも解釈されるようになった。

まあ貴族なのに劇場のマナーを知らない感じだったり無遠慮だったり、元からそういう気はあるんですが。だって「オペラ座の怪人」を劇場まで観にきてる人からすれば、劇場で変なとこでブラボーを言う客なんて「なんだよこいつ。帰れよ」と思うじゃん。だから初演のときからそういう視線誘導があったと思うんだけどね。

そして、ラブネバーダイズというオペラ座の続編が公開されてから……なのか本当のところは分からないけど、またちょっと違うラウルが現れるようになった。

ラブネバーダイズは、ラウルが借金を作っていてクリスティーヌが困っている。みたいなところから始まるんですね。

借金て。お前……

クリスティーヌが夢見がちなことを言うとちょっとめんどくさそうにする。えー早く会おうよ!みたいな軽いノリだったりファントムにガチでビビるものの見栄を張って退けなくなったり、そういうラウルが生まれてきたのはこの続編の設定が影響してるのかな。と思います。まあこの続編は失敗したらしいですけど

ラウルをこういう描き方すると、必然的にファントムの株が上がってしまう、というか、ファントムをカッコよく描かざるを得なくなってしまうのですよ。どっちかがカッコ悪いとき、どっちかはカッコ良くいないといけないんです。

だってどっちもカッコ悪かったらどうすんの??クリスティーヌはどっちを選んだらいいわけ?

 

……どっちも選ばなきゃいいのでは?

今考えると別にキスとかしてみせる必要ないしさ。